Arai Koh's Create Life

シナリオライター&ゲームライター・アライコウのブログ。創作、新旧の商業・インディーノベルゲームなどについて書きます。

フリー恋愛アドベンチャーのひとつの理想型。『ハッピーエンドに花を添えて』レビュー

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【参考記事】恋愛アドベンチャーで定評のある(猫)milkcatが約10年ぶりの新作を開発中!

 今回のフリーゲームレビューは(猫)milkcatの『ハッピーエンドに花を添えて』。第14回ふりーむ!ゲームコンテストでは見事に恋愛アドベンチャー部門の金賞を受賞しています。このサークルの久しぶりの復帰作ということで去年から注目していたのですが、遅ればせながらプレイし終えました。

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 社会人の主人公と花屋でアルバイトをしている女子高生が互いに一目惚れし、春夏秋冬を通じてハートフルな交際が描かれる……というストーリー。プレイ時間はおよそ2時間程度で、短編の部類に入ります。
 その作りは、まさに正攻法、オーソドックスという趣です。あっと驚く展開、そういうものはありませんが、ヒロインの抱える問題を4つのエピソードをかけて丁寧に解きほぐしていく構成は、非常に安心して見られるものです。このあたりはブランクがあったとはいえ、さすがベテランサークルの安定感でした。

 さて、本作の特徴を羅列すると、おおむね以下の5つでしょうか。

  1. 単独ヒロイン
  2. 短編
  3. 一本道
  4. 連作エピソード形式
  5. 驚愕の展開!などはない

 大手企業でさえ基本無料のコンテンツを乱発するこの時代、アマチュア作品はいかにして差別化を図るべきか、ここ最近よく考えています。
 ユーザーを満足させるためにゴージャスに、大ボリュームに、ストーリーも凝りに凝って……商業作品はどうしてもそうした傾向になります。それがタダでプレイできてしまうものだから、アマチュア作品がかつてに比べて注目を集めづらくなっているということは以前にも書きました。

【参考記事】フリーゲームの世界は優しさで満ちていてほしい

 しかしアマチュアがそれを真似することはまったくないわけです。『ハッピーエンドに花を添えて』のような特徴を持つ作品は、商業作品としてはそうそう企画が通らないでしょう。しかしフリーゲームとしてはこの上ない魅力になっています。上の5つは次のようにも言い換えられます。

  1. たったひとりの女の子のことだけを考えられる
  2. ゆっくり読んでも数時間あればコンプリートできる
  3. 攻略に悩む必要がない
  4. 大きな物語ではなく小さな物語を積み重ねられる
  5. プレイヤーに近い日常の物語を味わえる

 キャラクターの人生のワンシーンを描く。ノベル・アドベンチャーゲームにはそういった側面があります。さまざまなトラブルに見舞われたりしますが、人生とは往々にして平凡なものです。その平凡を脱却した物語こそがフィクションの存在意義のひとつですが――それはあくまで商業作品に限った話です。
 料理に例えれば、商業作品は高級レストランのメニュー、フリーゲームはささやかながら温かい家庭料理、でしょうか。身構えずに楽しめるのです。平凡な舞台、平凡な社会人、平凡な少女のフィクションだって当然あっていい。そもそも多様性こそが創作の世界を豊かにするものです。『ハッピーエンドに花を添えて』は、平凡に思えて実はその豊かさを提供してくれる、フリーゲームの理想とも言える恋愛アドベンチャーでした。

 商業では成立し得ない物語をも自由に作れる。これからのフリーゲーム作者は、その点を誇りとしてもいいのではないでしょうか。『ハッピーエンドに花を添えて』は、ひとつの指針になってくれるかもしれませんよ。