Arai Koh's Create Life

シナリオライター・アライコウのブログ。創作、新旧の商業・インディーゲームなどについて書きます。

クリック型アドベンチャーの醍醐味を再確認、そして新発見。『シロナガス島への帰還』レビュー

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 先日発表された同人ゲーム・オブ・ザ・イヤー2018の作品部門、つまり総合部門の受賞は旅の道『シロナガス島への帰還』に決定した。

 一個人での開催ながら、長年同人ノベルゲームレビューを続けてきたみなみ氏の眼には多くのプレイヤー・クリエイターが信頼を寄せている。私もそのひとりで、『シロナガス島への帰還』はつい先日にクリアしていたのだが、今回作品部門を受賞したのも納得のクオリティだった。

 父の死の真相解明を依頼された、ニューヨークで私立探偵を営む池田戦。天才少女の出雲崎ねね子と共に彼が向かったのは、絶海の孤島・シロナガス島。
 一癖も二癖もある来訪者たち。手口不明の殺人事件。姿を見せない館の主。そして池田とねね子は、島に隠された想像を絶する秘密に直面する――

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 本作は「古き良きアドベンチャーゲームの王道、オーソドックスクリック型アドベンチャー」と謳っている。『ポートピア連続殺人事件』(FC版)の時代から、コンシューマーとパソコンの両方で脈々と受け継がれてきたスタイルだ。近年は画面に直接タッチして操作する携帯型ゲーム機やスマートフォンの登場で、ポイント&クリックを要素として取り入れているゲームが、それこそ星の数ほど生まれている。

 そして遠く30年以上前に完成されたクリック型ミステリーアドベンチャーの魅惑は、今の時代も健在だった。
 気になるところをピンポイントで選択して調べる――多くの場合、何度も同じ場所を調べて同じメッセージを見てしまうハメになるのだが、ようやく正解のポイントを探り当て、事件解決に繋がるものを発見したときの喜びは格別だ。
 アドベンチャーゲームは物語の体験を目的のひとつとしている。であるならば、刑事あるいは探偵を仮想体験するのに、これ以上最適なスタイルはないのではないか(アメリカの探偵は日本の探偵と違い、実際に事件捜査もできる)。画面内の探偵と画面外のプレイヤーが、そのポイントを通じてリンクする。私が『シロナガス島への帰還』に感銘を受けたのは、今時このスタイルを堂々引っ提げていたからに他ならない。

 そして本作のハイライトとなるのが、爆弾の解体シーンだろう。画面全体が爆弾のグラフィックになっており、正しい箇所をクリックしていかなければならない(ネタバレ反転)。こうしたギミックは今までありそうで、あまりなかったように思う。繊細なマウス操作が要求されるPCゲームならではで、このシーンの緊迫感はただ事ではなかった。幸い失敗してもすぐにやり直し可能だが、私は何度となく失敗してしまった。

 もちろんそうしたギミックのみに頼ってはいない。閉鎖空間を通じて描かれる、人間の救いのなさと、ほんのわずか見いだせる温かな光。当初はいわゆる“絶海の孤島もの”本格ミステリーと思っていたのだが、そのスケールの大きさはとても好ましかった。
 そしてキャラクターが一級品だ。ハードボイルドを地でいく探偵の池田戦と、二十数カ国語を操り完全記憶能力を持ちながら、超絶コミュ障で酷い吃音が特徴の出雲崎ねね子。このコンビは実に楽しかった。できることなら、ふたりの物語をまた見てみたい。

 良質なストーリーと、古き良きクリック型アドベンチャーの、見事な融合だった。おそらく、やろうと思えば従来のノベルゲームのスタイルでも制作できただろう。しかしそれをよしとせず、複雑なクリッカブルマップとフラグをいくつも作り、このスタイルで完成させたことを心から賞賛したい。
 読むだけの作品ではなく、ギミックにも凝っている――それが最先端の形であることは世界中のビジュアルノベルクリエイターの間で共有されつつあるのだが、そうした中で『シロナガス島への帰還』をプレイできたことは、とても喜ばしい。