Arai Koh's Create Life

シナリオライター&ゲームライター・アライコウのブログ。創作、新旧の商業・インディーノベルゲームなどについて書きます。

たとえ完成せずとも意味はある。『世界終焉神話 MYTHOS 第一部』レビュー

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反響が全く足りませんでした。

 彼は最後のブログにこう書いていた。

nigata.ria10.com

 

 個人サークルなすびあんの青井えう氏が、同人活動を停止することを報告するブログ記事が、1ヶ月ほど前にTwitter等で話題になった。
 彼がすべてを投げ打って制作していたノベルゲーム『世界終焉神話 MYTHOS』(以下、MYTHOS)。やむにやまれず制作中止するに至った事情を赤裸々に告白し、また支えてくれたスタッフやサポーターに謝罪する、けじめの記事だった。

 この記事のことは私も以前から知っていた……というより数年前から同人クリエイターの間では小さな話題になっていたのだが、数千リツイートという規模でトピックに上がったのはこれが初めてだっただろう。
 だが、その取り上げられ方に反して彼の作品自体の感想は、まったくと言っていいほど見ることはなかった。一クリエイターの悲しい顛末として、彼のブログはただ一時消費されたにすぎなかった。そしてSNS社会の常とはいえ、たった1ヶ月で「ああ、そんな記事もあったね」程度の扱いになってしまっている。


 規模の大小にかかわらず、一個人がノベルゲームを完成させることは、それだけで賞賛されるべきことだ。
 青井えう氏は『MYTHOS』以前にもフリーゲームを2作発表しており、同人即売会にもたびたび出展していたようだ。私はまったく覚えていなかったのだが、フリーゲームのCD-R版が手元にあった。おそらく無料頒布されたものを受け取ったことがあったのだろう。

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 そして『MYTHOS』はニコニコ自作ゲームフェスにおいて入賞を果たし、しかも初めて応募したライトノベル新人賞では、いきなり三次選考を通過したという。商業シナリオの仕事も請け負っていた。実力があり、才能がある人だったことは疑いようもない。

 それほどの人でも、それほどの作品でも、「反響が全く足りませんでした」と総括し、同人活動から身を引いた。
 計画性の拙さを指摘するのは簡単なことだし、広報活動も上手くなかったかもしれない。実際に最後までプレイした今、作品自体の欠点も少なからずあったと感じている。

 だが欠点以上に、光るものがたくさんあった。これほど胸躍らせる、スケールの大きな同人ノベルゲームは、数えるほどしか知らない。

「"それ"は狂い、世界を壊しはじめた」

 2020年、すべてが一変した。
 太平洋に突如として浮かび上がる古代大陸。

 そこに眠っていたのは秘められた謎。
 しかしその謎から人類は目をそらし続けた。
 大陸浮上の核心には近づかないまま、新しく発見された未知の物質を求め戦争を始める。
 人間達が興味を持つのは大陸がもたらす利益のみだった。

 そして――突如起こった「一つの異変」が人類を滅亡寸前まで追い詰めた。

 2023年。
 世界の全都市が壊滅した。
 世界の空に悲鳴が響いた。
 世界が――音を立てて崩壊していく。
 戦争は終結した。人ならざるモノの手によって。
 もはや人類は向き合うしかない。
 大陸浮上の真の理由を求めて、人類最後の軍隊がその地に集結する。

 だがそこで彼らが見るのは――理解を超えた現実だった。

 あなたは――――世界の終わりを、見届ける覚悟はあるか?

  舞台となるのはオカルトSFの大定番であるムー大陸。古代兵器によって絶滅寸前まで追い詰められた人類が、残り少ない戦力を結集してムー大陸に乗り込み――ただ惨憺たる戦いを強いられる。
 徹底して絶望的な状況が続くストーリーは『進撃の巨人』などを想起させるが、これは主人公が巨人の力を手にしたことで、わずかばかり希望の光が見いだせる筋書きになっている。『MYTHOS』の場合はそれすらもない。主人公はただの軍人だし、相棒の少女はサイボーグ化により強化されているとはいえ、戦況を一気にひっくり返すだけの力はない。事実、バッドエンドがいくつも用意されており、選択肢のミスによってはあっさり彼らは死んでしまう。

 まったく先行きの見えない戦いが延々と描写されるのは、正直辛かった。もうちょっと圧縮して、おふざけのシーンも削って、テンポよく見せてほしいという気持ちはあった。いわゆる「掴み」の弱い作品ではあったかもしれない。

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 それでも主人公たちとは別の謎の部隊の出現を皮切りに、早くこの先を読みたい、と興奮に駆られた。七姉妹の女神、転生者、アカシックメタル――ムー大陸の秘密が徐々に明らかになり、SF的充足感が満たされていった。MYTHOSとはドイツ語で神話という意味だが、そのタイトルにふさわしい怒濤の展開だ。
 そして最後に待ち受けるどんでん返し――「よくもだましてくれたな!」と叫びたくなった! そこからの主人公の、まさに神をも欺く行動も驚愕の一言だった。こんなクライマックスを書ける人がアマチュアにいるのだ。

 演出も優れていた。スピード感あふれる画像処理と効果音を駆使した銃撃戦は迫力十分だし、緊迫した戦闘シーンでメッセージウインドウが赤く変化するなどは、よく考えついたものだと膝を打った。
 そして物語を全編彩るフルボイス。アマチュアノベルゲームとしては文句なしのハイクオリティだ。これは声優の力量はもちろんだが、青井えう氏の高いマネジメント、ディレクション能力の証明でもあるだろう。


 ――もし完成していれば。
 私はかれこれ15年以上アマチュアノベルゲームを見続けてきたが、そうした思いにとらわれる良作・佳作は枚挙にいとまがない。『MYTHOS』もそんな作品のひとつになってしまった。
 しかしここで疑問に思う。完成しなかったゲームは、はたして無意味なのだろうか?
 しっかりした計画を立てられず、大風呂敷を広げるだけ広げて、結局畳めなかった――実際にプレイして期待していたプレイヤーや、とりわけ直接金銭的に支援したサポーターには、そんな風に批判する権利は確かにあるかもしれない。

 だが、言いたい。完成しなかったゲームにもきっと意味はあるのだ。

 アマチュアのノベルゲームは、商業作品よりも作者個人の情熱がよりダイレクトに反映される。その情熱を感じ取ることこそが、アマチュア作品の醍醐味だと私は思っている。『MYTHOS』の熱量は、他の有名作に何ら劣るものではない素晴らしいものだった。完成未完成はこの際問うものではない。大風呂敷こそが何物にもとらわれない、アマチュア創作の真骨頂ではないか。
 だからこそ私は『MYTHOS』のレビューを書き残しておきたいと考えた。たとえ作者本人には届かないとしても、彼の情熱を感じることは、プレイヤーにとってもクリエイターにとっても価値があることと信じている。

 そしていつの日か――もはや余計なことかもしれないけれど――彼が創作の舞台に戻ってくることを願っている。