Arai Koh's Create Life

シナリオライター&ゲームライター・アライコウのブログ。創作、新旧の商業・インディーノベルゲームなどについて書きます。

その人生はただひとつ。『あなたの命の価値リメイク』レビュー

スポンサードリンク

同人誌、同人ゲーム、同人ソフトのダウンロードショップ - DLsite.com

 前回の記事に続き、6月に行われる札幌創作オフ会参加者の作品のレビューです。浦田一香さん(@urataitika)の『あなたの命の価値リメイク』(以下、あなたの命の価値)は、2017年に公開されたものを加筆修正などリメイクした作品です。

主人公岩佐勇気(高校2年生)は親からの虐待が原因で、
児童養護施設「キズナの学園」で暮らしている。
辛い過去があったものの施設の仲間や職員、
学校の友達など優しい人たちに囲まれて
将来は幸せな家庭を築く、という夢に向かって生きている。
――これは人を愛し、自分の大切さに気付き、そして大人になる物語――

 フリーのノベルゲームの価値はどこにあるか。それはやはり、商業作品ではなかなかお目にかかれないテーマやシナリオに出会えるということでしょう。本作の場合、主人公が幼い頃に実の両親から虐待を受けていたというのが、まさにそれです。
 悲惨な過去を背負った主人公、それ自体はよくある設定です。家族と死に別れていたり、そもそも親の顔を知らない孤児だったり。しかし虐待を受けていたというのはかなり珍しい。
 自身の体と心に大きな傷を負う――これがあまりにも生々しくイメージできてしまうからです。ノベルゲームは主人公とプレイヤーのある程度の同一化が避けられず、したがってこのようなことは商業作品では敬遠されるのですが、本作はアマチュアならではの自由さで、そして真摯に描き上げています。readmeファイルには参考書籍と資料の一覧がありますが、相当な勉強と調査をされたことがわかります。

 施設暮らしの中で真人間に成長することのできた勇気は、周囲の人々と温かく交流しつつも、それぞれの悩みに触れ合っていきます。しかしその人の人生を支えるというほどには、深く関わることはありません。やがて彼は、人生を支えたいと思う唯一の女性・夏美と愛し合うようになり、ついに幸せな家庭を築くという夢を叶えるわけですが――

f:id:araicreate:20190428184307p:plain

 冒頭で触れたように、本作はリメイク作品です。目を惹いたのは「ルート分岐とバッドエンドは廃止しました。」という一文。ノベルゲームのリメイクは珍しくありませんが、こうした例は見た記憶がありません。逆に分岐数やエンディング数を増やすのが普通です。
 つまりこのルート一本化という構造自体に、作者さんの強い思いが込められているのだろうと感じました。
 ノベルゲームはゲームらしさを盛り込むために、選択肢やフラグによるストーリー分岐といったシステムが当初から確立されていましたが、やがてもうひとつの意義が生まれます。
 それはひとりの人間の人生を克明に描写するというもの。匿名掲示板の冗談(?)から「CLANNADは人生」という名言が生まれていますが、実際ノベルゲームの本質の一端を表していると言えます。

 比較のためにマルチエンディングだったリメイク前のバージョンもプレイしたのですが、明らかに作品としてのまとまり、物語の強度が違いました。リメイク前は分岐先で各キャラクターの悩みに触れ、寄り添っていくという流れでしたが、分散しているために少々あっさりしている感は否めなかったのです。
 また、バッドエンドはとても存在意義のあるものだったのですが、正ルートとの落差があまりに激しく……。これを一度見てしまっては、プレイヤーはその後どうしてもバッドエンドの影がちらついてしまうでしょう。

 作者さんはこれらの欠点を解消するために、リメイクとしては異例のルート一本化に踏み込んだのだと思います。各キャラクターの悩みに触れ、解決の手助けをするパートについては、多少あっさりしているとしても、すべて勇気の人生に組み込んだことで、青春の一ページとしての意義を与えているのです。そして正ヒロインは、勇気が生涯で唯一愛する女性は、夏美に他ならないといっそう強調しています。

 人生に「もしも」があったなら……そんな想像を形にしたのがノベルゲームのマルチエンディングですが、これを廃し一本道にすることで、主人公の人生をよりダイナミックに描写することができます。
『あなたの命の価値』は、一本道にリメイクすることで、真の意味でタイトル通りのテーマを描写しきったと言えるでしょう。一度世に出したものを作り直すというのは、たとえそうしたいと考えても、なかなか実行に移せることではありません。しかしそれを実行したことには、深い敬意を覚えます。