Arai Koh's Create Life

シナリオライター&ゲームライター・アライコウのブログ。創作、新旧の商業・インディーノベルゲームなどについて書きます。

子供とは違う何かへ。近未来青春アドベンチャー『春のうらら』レビュー

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 久しぶりのフリーゲームレビューは、サークルSEAWESTの『春のうらら』です。元は2014年に有料頒布された作品ですが、2018年にフリー化されました。

 サークル代表の缶三郎さん(@saburoukan)とは昨年末の同人ゲーム関係者の忘年会でご一緒しており、本作もその頃からプレイしていたのですが、なんだかんだと今日までかかってしまいました。
 何よりもストーリー紹介が素晴らしいので、そのまま引用させてもらいましょう。

大人制度――というものがある。
18歳の誕生日を迎えると同時に、僕らは「大人」になるための処置を受ける。

そのおかげで、この社会には「大人」だけしかない
戦争もなければ犯罪すらない平和な世の中。

思慮深く、協調性にあふれ利他的に行動する「大人」たちに、
僕らは自動的になれるのだ。

素晴らしい社会なんだと、思う。
でも一方で心の中にはうっすらとモヤがかかる。

――本当にいいの?

明確な形にもならない疑問がわだかまる。

幸い僕は誕生日が遅い。
周りの友達が一足早く「大人」へと変わっていくのを見ていくことになる。

その中で見えてくることもあるだろうか。
残りの一年で、この疑問の答えが出るといい。

 争いの根源である感情を抑えることで幸福な社会を実現しようとする……こういった設定のSFは映画『リベリオン』など以前からあります。ちなみにこの作品、あの虚淵玄さんが二次創作ノベルゲームを作ったことでコアなファンには知られています。

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 もちろんそんな世界は、たとえ表面上は優しく見えたとしても、異様以外の何物でもありません。
『春のうらら』はそれを学園青春ストーリーに組み込んだという一点で評価されます。感情をなくした人形を作るというのではない。確かに平和が実現している。だけど確かな心地悪さがある……そんな日常が、多感な高校生の視点を通じて描写されます。
 どんなプロセスをクリアして自国だけにそんな制度を導入できたのか、国際社会からの評価はどうなのか……など様々な疑問点はあるにせよ、それは些事としておいておくのが本作を楽しむ秘訣でしょう。
 何しろ主人公たちの世界は小さく、社会のことはほぼ目に映っていません。友達、嫌いな相手、憧れの人、幼なじみ、関わりのない人、そして恋人――ごく狭い子供同士の世界です。そのコミュニティの中で揺れ動く感情――大人化の前に消え去ろうとする、はかないロウソクの炎のような情動に着目すればいいのです。

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 誕生日の遅い主人公・仲田晴彦が、周囲が順々に大人に変わっていく様子を眺めながら(当然止めることはできない)、高校最後の1年を過ごす――この構成の妙には感心させられます。春夏秋冬と季節が過ぎ、ついに最後の「子供」になった晴彦の葛藤、諦観、そして決意。
 最後に彼が取った選択肢は、なんとなくそうなるかなという気はしていました。しかしこれも、物事の解決には所詮至らない道です。きっと晴彦も、最終的には「大人」になるんでしょう。それを暗示させる終わり方でした。

 

 大人というのは誰かの責任でなるものではありません。そこで大人化という設定によって、強制性を提示してみせたのが本作の優れたポイントです。
 一定の年齢を迎えた――それが大人になったということではないのは言うまでもありません。何しろ世の中、子供のような言動の中高年も散見されます。大人であるか否かというのは、己の自覚だけでなく他者によっても判断されるのです。すなわち主観と客観の双方で成立するのが大人というものです。

 そこで主観も客観も排除し、いわば国の責任で、極端にシステム化された制度によって、自動的に確かな大人と認められる。
 それは安心できる社会であるかもしれない。現にいろいろなことがよくなっている。
 でも、人間ってそういうものじゃないはずだ!
 ささやかな、それも結末の見えている反抗をする少年は、はたして愚かでしょうか。決してそうではないでしょう。

 大人になるとはどういうことか? 答えはよくわからないけど、大人になることは避けられない。
 その普遍的な切なさが、その答えのわからなさこそが尊いという、ほんの小さな人間賛歌。『春のうらら』のテーマはそこにあると感じました。

 最後にもっとも感銘を受けた部分を紹介しましょう。

【川瀬 拓真】
「『大人』ってなんだろうな、晴彦」

 

【仲田 晴彦】
「さあ……ね。
 子供とは違う……なにか、だろ」