Arai Koh's Create Life

シナリオライター&ゲームライター・アライコウのブログ。創作、新旧の商業・インディーノベルゲームなどについて書きます。

田中ロミオの新境地となるか。『和香様の座する世界』体験版レビュー

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 90年代後半~2000年代前半が、美少女ゲームがもっとも盛り上がっていた時期。このことは多くの識者・プレイヤーが意見を一致させることでしょう。
 この頃に多くの名作・良作が世に出た影響で、美少女ゲームのシナリオライターがある種の「憧れの職業」にもなっていました。かくいう私も新卒でいくつかのメーカーに応募したことがありました(結局その希望は叶わなかったのですが)。
 私と同じような書き手志望は、当時少なくなかったはずです。田中ロミオさんは、そんな憧れを抱かせたシナリオライターのひとりだったと思います。

 ロミオさんは『加奈 ~いもうと~』、『家族計画』(いずれも山田一名義)、『CROSS†CHANNEL』などで美少女ゲーム業界に確固たる評価を確立し、keyの『Rewrite』などいくつかの全年齢対象ゲームにも参加。しかし近年はライトノベル作家としての活躍が目立っており、18禁美少女ゲームのシナリオ執筆は長らくありませんでした。

人類は衰退しました1 (ガガガ文庫)

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 そしてエロゲライター田中ロミオとしては、実に十数年ぶりとなる新作が4月26日発売予定のみなとカーニバル『和香様の座する世界』です。企画を担当するのは業界有数のヒットメーカーであるタカヒロさん。両者は以前、ゲーム制作をテーマにした『少女たちは荒野を目指す』(全年齢)でタッグを組んだことがありました。

みなとカーニバル『和香様の座する世界』応援中!

2018年。
古都・葉倉に住む主人公「梅園 遼河」は、現世に現れた古き神に食われそうになる。

しかし日本は飯が美味い。
美味しい食材を提供し、難を逃れた主人公は、
そのままその古き神の従僕にされてしまい、世話役になってしまう。

古き神「ワカ」は好奇心満点で、振り回される主人公。
しかし、世界には魑魅魍魎たちが現れ始め、主人公の周囲は騒がしくなっていく。

主人公は怪異による犠牲者を減らすために、「ワカ」こと和香に頼んでその怪異を鎮圧していくことになる。
和香は現代の日本を謳歌し、気に入っていたので、主人公とともに魑魅魍魎退治へと乗り出す。
やがて和香の妹・ルルハも現れ、他の神も現れ、大きな運命が動き出す。

 ひょんなことから人外の者と出会ってしまい、奇妙な同居生活がスタートする――というのはノベルゲームで幾度となく繰り返されてきた伝奇物のテンプレートですが、とにかく軽い。軽いというのは悪い意味ではなく、これはロミオさんの特色ですが、軽妙であるということです。
 ただ人外ヒロインに振り回され右往左往するだけの主人公というのは、本作では見られません。現代の常識に疎く昔とのギャップにいちいち驚くヒロイン(邪神)を、何となくコントロールしていく。非日常に巻き込まれた現状をどうにかしようと必死になるのではなく、従来の日常の延長線のように過ごしていく。魑魅魍魎を恐れることはあっても圧倒はされない。そしてヒロインともいつの間にか打ち解ける。それらが氏独特のリーダビリティ抜群のテキストで表現されます。

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 志望者からシナリオライターになって、それなりに経験も積んできた今だからこそわかるのですが、ロミオさんのテキストは恐れ入るほど読みやすく、また現代会話劇の面白さが詰まっています。やたら偉そうなポンコツヒロインをこれほど上手く書ける人が、他にどれだけいるか。もちろんストーリー進行もよどみなく、まぎれもないベテランの技。シナリオライター志望者はこの体験版をプレイしておけば基礎がだいたい学べるんじゃないか、と思えるほどです。

 さて、ロミオさんの過去作リストを眺めてみると、この手の日本神話・妖怪をモチーフにしたシナリオや小説は他にはないようです。すなわち本作はロミオさんにとって新境地となる可能性があります。
 神話を美少女ゲームに落とし込むのは、これもまた以前からある手法です。この系列の最大のヒット作は言わずとしれた『Fate/stay night』でしょう。

 神話にもっと親しみやすく。
 おそらくこれが『和香様の座する世界』のコンセプトのひとつです。

 神話をいかに現実と融合させるか。すなわち常世と現世の関係をどう説明づけて描くか。さまざまな方法が試みられてきましたが、『和香様の座する世界』においては、実にわかりやすい世界観が構築されています。このあたりはタカヒロさんの力も大きいと思われますが、万人にとっつきやすいシナリオにしているのは、やはりロミオさんの功績です。いや、わかりやすいというのはそれだけで正義なんですよ。

 本作はミドルプライスでの発売が予定されています。ものすごく壮大な物語というのではないでしょう。コミカルでシニカルな伝奇ストーリーが、ほどよいボリュームで展開されるのだと予想されます。
 しかしそれこそ忙しい現代のエロゲーマーに求められるもの! これで日本神話に興味を持ったという人もきっと出てくるでしょう。この春有数の注目作・話題作となりそうです。いかにもメディアミックスしやすそうな作品ですし、すでにそのあたりも視野に入っているのかもしれませんね。