Arai Koh's Create Life

シナリオライター・アライコウのブログ。創作、新旧の商業・インディーゲームなどについて書きます。

これが美少女ゲームの最先端。映画的演出を凝縮した『アオナツライン』体験版レビュー

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 私はこれまで一プレイヤーとして、また作り手としてノベルゲームに関わってきたのですが、最近はメディア表現の研究対象としてもこのジャンルを捉えてみようと考えています。
 そうなると重要なのは、業界の最先端技術に触れてみることでしょう。具体的にはアダルト美少女ゲームです。いかに美少女を可愛く魅力的に表現するか、それを突き詰めてきたこの業界の最新作品群には、見るべきものがたくさんあるはずです。
 そこで今回体験版をプレイしてみたのが、戯画の『アオナツライン』。戯画はこれまで数多くの作品を世に送り出してきた、業界でも有数の大手ブランドとして知られます。

「夏休み、何する?」と日々相談している、
平凡な男子学生「及川達観」、
元気な幼なじみ「向坂海希」、
ニヒルな悪友「榊千尋」の仲良しグループの3人。

そこに小さなきっかけから、
共学校に憧れ転校してきた、まっすぐすぎるお嬢様「仲手川結」、
学園デビューに失敗したイマドキ下級生「椎野ことね」が仲間に入ってくる。

5人の仲良し(?)グループによる、
人生で一度きりの、甘くせつない夏休みの計画が始まる。

コンセプトについて

 ノベルゲームにおいて、いったいどれだけの学園恋愛ものが世に出てきたことでしょうか。そこで本作のコンセプトに「今一度、この普遍的なテーマに挑む」と掲げているのが頼もしい。制作陣の意気込みのほどを感じさせます。
 いかに新しさを取り込むか? それはクリエイターにとって永遠の課題です。星の数ほど先行作品のある学園恋愛ものにとっては、あまりにハードルの高い難問。『アオナツライン』のヒロインも、気心知れた幼馴染みにお嬢様転校生に現代っ子の後輩と、設定だけ見れば斬新さはありません。

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 しかし恋愛作品はやみくもに新しさを追求するより、時代性を取り入れていることのほうが重要ではないでしょうか。
 この閉塞感のある現代、「癒やし」がもっとも求められています。不快感のない自然なキャラクター、爽やかで広々とした海沿いの町という舞台、加えて萌え萌えしすぎない瑞々しく透明感あるCG。それだけで魅惑たり得るのです(暴力、ワガママ、メシマズ、そんなヒロインもうみんな御免のはず!)。

 美少女ゲーム市場は年々縮小し、新規の若者ユーザーも増えず、購買層は従来から買い支えている30代~40代が中心でしょう。この世代にとって、ノスタルジーを喚起せずにいられない学園青春物語は、時代性も相まって一昔前よりもさらに魅力的なものになっていると思われます。『アオナツライン』の醸し出す空気感は、まさに今の美少女ゲーム業界のトレンドと言えそうです。

演出について

 本作は「シネマチック学園恋愛アドベンチャー」と銘打っています。タイトル画面が一枚絵ではなく、ずっとPVを再生しているのは驚きました。さながら映画の予告編を見ているようで。
 そしてゲーム本編ですが、細やかなカメラワーク、陽射しなど光の表現、バスケットボールの弾む音や鳥の鳴き声や波音などの環境音――使われている技術そのものは珍しくないのですが、その密度がすごい。だいたいどのシーンも動くし、何らかの音が聞こえる。電車に乗っているときの揺れまで表現していて「そこまでするのか!」と目を見張りました。
 シネマチックとは何か――定義するなら「本物の映画のように、常に視覚と聴覚に訴えてくる」でしょうか。ただの読み物で終わらせないと、ノベルゲームクリエイターたちはシナリオはもとより演出を模索してきました。『アオナツライン』はこれまで美少女ゲーム業界が培ってきたそれらの技術を、究極まで洗練して詰め込んでいます。

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 そして個人的に注目したいのは、メッセージウィンドウがデフォルトで透明になっていることです。設定で不透明にすることはできますが、なるべくなら透明のままプレイしてほしいと制作側が考えていることは間違いないでしょう。美少女ゲームではスタンダードな顔ウィンドウもありますが、これもデフォルトでは非表示です。

 テキストを読みやすいようにメッセージウィンドウを配置する、それが従来の常識でしたが、近年のゲームは大画面化、ワイド化しています。つまりグラフィックの比重が大きくなっているわけで、可能ならばその魅力的なCGをダイレクトに見せたいというのは、当然の考えなのでしょう。メッセージウィンドウを完全に透明化してもテキストがちゃんと読めるならば、そのほうがずっといいわけです。
 さらにこれが、単なるテキストではなく字幕のように見せる効果ももたらしています。一画面のテキスト量を必要最小限にして、ストレスなく読ませる。同時にシネマチックな演出にも寄与しているのです。

補足

 本作でディレクターを務めているのは大地こねこさん(@dkoneko)です。大地さんのことは以前から(面識はないですが)存じ上げています。それというのも私と同じ同人ゲーム出身だからです。
 サークルKITTENSとして2000年代前半に活動し、特に当時有料でリリースした『マイ・スイート・トマト』は、現在はフリーウェアとしてダウンロードでき、実況動画が投稿されるなど、多くの人に人気を博しているようです。

www.freem.ne.jp

『マイ・スイート・トマト』は全編に渡って一枚絵で構成された、当時としては非常に画期的な「ビジュアルサウンドシアター」でした。久しぶりにプレイしたのですが、これもメッセージウィンドウは採用していないんですね。
 これがノベルゲームの理想のスタイルのひとつ。そうした理念を以前からお持ちだったのだろうと窺い知ることができたのでした。