Arai Koh's Create Life

シナリオライター・アライコウのブログ。創作、新旧のインディーゲームなどについて書きます。

今は無き場所、これからの場所。『雪子の国』レビュー

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突如天狗になった少女の成長物語『みすずの国』レビュー

少年ふたりの鮮烈な青春ノベルゲーム『キリンの国』レビュー

「国シリーズ」初の有料作品となる『雪子の国』は、これまでのフリーゲーム2作品とは、その雰囲気をガラッと変えてきた。

『みすずの国』では、異国におけるひとりの少女の決意を。
『キリンの国』では、やはり異国におけるふたりの少年の強さを。

 日本国内にあって独自の歴史と価値観を紡いできた天狗の国。我々の住む世界と大きくかけ離れ、いけ好かない空気とどこか温かい空気が同居していた異界。
 その異界の空気の描写こそが本シリーズの根幹であり、だからこそ足を踏み入れた彼ら、彼女らの健気なキャラクターはより際立つ仕組みになっていた。

 そんな“魅力的な”天狗の国は、戦争の結果すでに解体され、天狗たちも「帰化生」として各地に散っていた――この思い切った舞台設定には心底驚いたが、設定ひとつで良作たりうる作品というのは確かにある。『雪子の国』も間違いなくその類だった。


 地方活性化と青少年教育を兼ねたホームステイ制度・故郷留学。東京から遠く離れた海沿いの町にやってきた主人公の神崎ハルタは、そこでさまざまな人々や不可思議現象と出会い成長していく――ストーリーの大筋はこのようなものだ。
 住み慣れた場所を離れ異郷に飛び込むというのは前2作と同様だが、ヒロインが登場するという決定的な違いがある。
 すなわち作者はラブストーリーに挑戦したのだ。

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 天狗、帰化生の東雲雪子。気が強く、「才貌両を備えたパーフェクツな雪子ちゃん」などとちょくちょく自慢も入る、自主自立精神の強い少女。
 そして『みすずの国』の舞台でもあった愛宕の、戦争で敗れた国の出身――このキャラクター設定から、我々の住む世界の諸問題を想起しない者はいないはずだ。
 前2作はファンタジーの趣が強かったが、『雪子の国』はきわめて現実的だった。それはそうだろう。恋愛とはファンタジーではなく、どこまでも現実でなければならない。
 しかし本作の採った方法は、彼女の抱える問題を男らしく解決して急接近させるという安易なものではなかった。

 前半のハイライトは、天狗の国の復興を目論む男たちとの衝突。同じ国の天狗として雪子は、彼らを叱咤する。もう愛宕はなくなった。お前たちは過去の亡霊だと。ここで彼女の強さと健気さを十全に描写することに成功している。
 中盤は食えない性格のクラスメイト・猪飼の切ない人生を巡るドラマになる。ここではハルタはほとんど力になれていない。ただ、彼に率直な言葉を投げかけるのみだ。

「救われてくれ、頼む」

 ハルタは特別正義感の強い少年というわけではない。ただ常識的であり、道理の通らないことは我慢ならない。そして人並みに優しい。
 彼は主人公ではあるが、『キリンの国』の圭介のように強く活躍するわけではない。誰とも適度な距離感を持って接する。そんな飾らない人物像の描写が、プレイヤーの共感を得ていく。
 ああ、こういう男なら好かれるだろうな、と。

 ハルタと雪子は、あくまで独自に自身の魅力を見せる。それが結果的にふたりの繋がりに説得力を持たせている。
 積極的に寄り添い干渉するばかりが、恋愛を成功させるプロセスではない。男女が結ばれるのに、劇的なイベントは必要ない。
 従来のノベルゲームにおける恋愛描写は、美少女ゲームにせよ乙女ゲームにせよ、多くは男性主体だろう。そのいずれでもない『雪子の国』だからこそ対等な、ニュートラルな男女の恋愛描写が成立しえたのではないか。

 そして終盤、東京に戻ったハルタ自身の問題――天狗である雪子と結ばれるための、リアルな障害が描かれる。
 この終盤はさほど長くなく、それでいて個人的にはもっとも見事なパートだった。それまで他のキャラクターに見せ場を奪われがちとも言えたハルタが、このリアルを一身に担うことで主人公としての存在感を高めているのである。
 ファンタジーとリアル、絶妙にバランスの取れた物語はついに結実する。過程についてはネタバレになるから差し控えるとして、結果については書いてしまってもいいだろう。ふたりは無事に一緒になる。

 ここに至って『雪子の国』というタイトルが、じわりと染みる。
 かつて国を無くした少女が、新たな安住の国を見つけるまでの行程。雪が溶けて春になるような、途中寒くはあったけれどやがて温かになる道のり。
 この国で幸せになれるだろうかと、ハルタは思いを巡らせる。しかしきっと大丈夫だと、ラストシーンの余韻が思わせてくれる。
 シリーズの美点である叙情性に加え、新たに爽やかな男女の絆を見せてくれた。3作目にしてそのクオリティは頂点に達したこと、疑いない。

雪子の国

雪子の国(DLsite.com)