Arai Koh's Create Life

シナリオライター・アライコウのブログ。創作、新旧のインディーゲームなどについて書きます。

少年ふたりの鮮烈な青春ノベルゲーム『キリンの国』レビュー

スポンサードリンク

同人誌、同人ゲーム、同人ソフトのダウンロードショップ - DLsite.com

【前回の記事】突如天狗になった少女の成長物語『みすずの国』レビュー

 前回の続きです。『みすずの国』は非常に抒情豊かで読後感も爽やかな短編でしたが、『キリンの国』はさらにそれを発展させ、質的にも量的にも大満足のフリーノベルゲームとなっていました。

京都丹波の山奥にある、鞍馬特別行政区。通称、天狗の国。
そこでは天狗とよばれる民族が、独自の文化をもって暮らしていた――。

ある日、キリンと圭介のもとに、一通の手紙が鞍馬特区から届く。
それは鞍馬のお姫様、ヒマワリ姫からの招待状。

夏休み。

キリンと圭介は、二人、旅にでる。

  天狗の国、鞍馬特区から追い出された身であるキリンと「超過者」である圭介のコンビでストーリーは展開します。圭介の一人称で進行するので、主人公は一応彼ということになるでしょうか。
 法律の制約上、遠出もままならない圭介を屈託なく「一緒に行こう」と誘うキリンに対し、圭介は何だかんだと言いながら付いていく――この導入部だけで、ふたりの適度な距離感の友情が伝わってきました。そもそも野郎ふたりで夏の旅というのが、もう抜群にいいわけです。

 そこから鞍馬特区への密入国を経て、ふたりはさまざまな人々に出会うわけですが、温かな交流あり、いけすかない敵役とのいざこざあり、そして『みすずの国』で強烈な印象を残したヒマワリとの邂逅あり――登場キャラクターは相当に多いのですが(立ち絵は合計1,000枚にもなるそうで)、誰もが皆、個性的な存在感の持ち主。心地よい会話、食事シーン、独特の風俗、神通力による鍔迫り合いなど、心理描写はもちろん、あらゆるキャラクター描写において作者さんの卓越した技量が表れています。

f:id:araicreate:20181120204421p:plain

 本作のテーマは、少年たちの夏の一幕。ヒマワリとの胸が熱くなるようなラブコメとか、閉鎖的な天狗の国を相手取っての大立ち回りというものはありません。圭介とキリンの、どこまでも青く、まっすぐで、鮮烈な夏です。かつて少年で今は中年に差し掛かろうとしている世代には、あまりにもまぶしい。
『みすずの国』がそうだったように、本作の美点は何より主人公ですね。圭介は見た目はいかにもチャラそうな感じなのに、人情と優しさ、強さにあふれた“男”です。これほど魅力的な主人公は、なかなかいません。

 プレイ時間は8時間ほど。フリーノベルゲームとしてはかなりの長編ですが、一切ダレることなく濃密な時間を味わえるでしょう。少し不穏な空気を残しながらのエンディングですが、次作『雪子の国』がどうなるか、とても楽しみです。