Arai Koh's Create Life

シナリオライター・アライコウのブログ。創作、新旧のインディーゲームなどについて書きます。

突如天狗になった少女の成長物語『みすずの国』レビュー

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 ここ数年の私は仕事にかまけて新規のノベルゲーム開拓をなかなかできずにいたのですが、今年5月に行われたコミティアのビジュアルノベル部に足を運んだのがきっかけで、ようやくその意欲も再燃していました。

【参考記事】コミティアのビジュアルノベル部を要チェック!

 実はそれ以前から評判を小耳に挟んでおり、ビジュアルノベル部でも見かけたのがサークルスタジオ・おま~じゅの『雪子の国』です。予算の都合で現地では購入しなかったのですが、あとでダウンロード版を購入しました。
 で、この作品は「天狗の国シリーズ」というものの3作目と知りました。他の2作『みすずの国』『キリンの国』はフリーで公開されています。ではこちらを先にプレイしなければ……と思いつつ、なんやかんやで今日までかかってしまったのですが、ようやく双方ともプレイ完了したので、まずは『みすずの国』からレビューしてみたいと思います。

 

 天狗の存在が広く認知されている現代日本。普通の人間もPTK値――ポテンシャルテレキネシス値が規定数値を超えた場合、法律上は天狗であると見なされてしまう。ある日突然天狗になってしまった少女みすずには、ふたつの選択肢があった。一生を国の管理下で過ごすか、天狗の国での生活と訓練に耐え「優良超過者」の資格を取るか。そして彼女は母親に別れを告げ、未知なる異国へと向かった――。

 

 本作の美点はいくつかあるのですが、すぐさま目を惹いたのが卓越した文章力。セリフも地の文も、ほどよく技巧的でほどよく抒情にあふれています。京都弁をベースとしたと思われる方言を話す天狗もいるのですが、実に自然。これほどまでに上手いと思えるテキストは、商業作品でもそうそうありません。
 そして相当に多い立ち絵。ほんのちょっとしたモブキャラにも用意されているし、1回きりのアクションにも専用の差分があったりします。シナリオもグラフィックもひとりでこなしているからこその力業ですが、どんなシーンでも決して手抜きはしないという情熱を感じました。

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 人間界とのギャップに四苦八苦するみすずと、鞍馬の国の姫・ヒマワリとの交流をメインに進行します。ただただ平凡な少女と、生まれついての貴族であり圧倒的な才の持ち主。こういった構図は何十年も前の少女漫画から描かれていますが、天狗の国という舞台設定が妙味をもたらしています。同じ国のようでそうではない異郷、そこに身を投じざるを得なかったみすずの苦労は、単なる現代ものでは描きがたい重さがあります。
 それでも健気さを失わないみすずのキャラクターこそが、本作一番の美点でしょう。ラストにおける彼女の気概と挑戦は、胸のすく清涼感に満ちていました。エンディングもふたりのこれからの関係性を明示して、実に爽やかです。

 プレイ時間はせいぜい2時間ですが、このシリーズにもっと触れたいと思わせる、たくさんの魅力を確認できました。第10回ふりーむゲームコンテストのノベル部門で金賞を受賞しているのですが、納得です。
 そして同時に最優秀賞――つまり全応募作の中でトップを獲ったのが『キリンの国』です。こちらはさらにすごかった。詳しくは次回レビューで。

【続きの記事】少年ふたりの鮮烈な青春ノベルゲーム『キリンの国』レビュー