Arai Koh's Create Life

シナリオライター・アライコウのブログ。創作、新旧のインディーゲームなどについて書きます。

『虚構英雄ジンガイア』レビューFINAL――そして彼は父親になった

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※未読の方はこちらからどうぞ。

『虚構英雄ジンガイア』レビュー序論――ノベルゲームの父親不在

『虚構英雄ジンガイア』レビューVol.1――連作ノベルゲームの理想型

『虚構英雄ジンガイア』レビューVol.2――ノベルゲームへのゲーム的アプローチ

『虚構英雄ジンガイア』レビューVol.3――インディーではなく、同人ゲームらしさを求めて

 

 幾星霜の漂流を経て、ついに神原英雄は最後の戦いに臨む。

 FINAL。ここに来て『ジンガイア』は当初の異世界ロボットSFに回帰した。戦うのは英雄だけではない。鳴海も、最川も、鬼桜の面々も、譲れない思いを胸に生死を懸ける。
 さらなる新キャラクターを交えて多方面に展開されるバトルは、実に全体の半分ほども費やされている。同人ノベルゲームは、最後にはバトルで熱くなるものなのだ。SFミステリーだった『ひぐらしのなく頃に』においても、ラストエピソードはそうだったのだから。さまざまな独創性を見せる『ジンガイア』だが、こうしたところで同人ノベルゲームの伝統を受け継いでいるとも言える。

 そして――あらゆるすべては「彼」の思惑どおりだった。

 英雄、鳴海をはじめ、すべての人間たちは「彼」の手の平の上だった。誰もが「彼」の用意したレールに沿って進んでいただけであり、運命を翻弄されていた。
 ここで言う「彼」とは、もちろん物語上のあるキャラクター……黒幕を指しているのだが、『ジンガイア』の作者本人であると言い換えられるかもしれない。
「彼」の正体が明らかになったとき、「彼女」は驚愕し、呆然とした。私がそうだったのだが、初見のプレイヤーたちの反応も必ずやそのようなものになる。それほど「彼」の正体をめぐる展開は予想のつかないものであり、作者の渾身の語り、そして「騙り」が成功した瞬間だった。

 ノベルゲームの醍醐味はさまざまあるが、この「真相が一挙に明かされることの快感」は何にも代えがたい。
 RPGなど他のジャンルでもそれが見られることはあるにせよ、文章のみで読者を踊らせる小説、その文法を流用することで歴史を紡いできたノベルゲームは、この方面において圧倒的な強みを持つ。
 だからこそノベルゲームの名作はしばしば「記憶を消してもう一度プレイしたい」と評されることがあるが、『ジンガイア』もその賞賛を受けるにふさわしい。

f:id:araicreate:20180803180614p:plain  さて、本作のコンセプトをあらためて振り返ってみよう。
 ただの男がいつか父親になる物語――そう掲げるからには、すべてのプロットはこのコンセプトを達成するために構成されていなければならなかった。作品を成功させるには、それが絶対条件になっていた。

 ヒーロー。正義の味方。かつてそんなものを夢見ていた少年は、いつしか平凡な父親になった。日々の生活に追われながらも、愛する妻と子供たちに囲まれて、この小さな幸せを守っていこうと決意した。
 その幸せが破壊されて、彼は家族に何ができたのか。
 何もできなかった。英雄がただ無力な存在で、たとえ人外の力を得たとしても結局はより大きな力に弄ばれる。そのことはVol.1から一貫して描写されていた。

 父親とは何か? これが本作の最重要テーマだ。
 ただ血の繋がりがあるだけでは、本当の父親にはなれない。血の繋がりに甘えるな――英雄の苦悩を通じたこの主張は、実際に子供がいるいないは問わず、あらゆる男性に強烈に突き刺さるだろう。
 無論、こうであれば父親だというような、万人に共通する答えはない。

 しかし長すぎる旅路の果て、ついに英雄はその選択をした。
 父親にできることとは結局――全力で子供の未来を信じ、自分よりも幸せになってほしいと願うこと。そして子供のためならば自らの犠牲を厭わないこと。それを行動で示すことなのだろう。

 本作の平均プレイ時間は、15時間ほどにもなるだろうか。
 そのラスト5分間が――圧倒的だった。0.5%のために、それまでの99.5%はあった。混沌と絶望ばかりが支配していた作品世界の中に、ほんのわずか残っていた光。それがわずか5分間にすべて凝縮され、歓喜の中で爆発していた。
 神原英雄は、永遠に子供たちの父親であり続ける――。
 
『虚構英雄ジンガイア』という物語は、そうして輝かしいエンディングを迎えた。
 愛する家族を守ろうとする父親――他のメディアではいくらでもある題材なのだが、ノベルゲームにおいては非常な希少種だ。それをこのような素晴らしい形に結実させた作者の力量を、あらためて賞賛したい。私はこのレビューを執筆するために何度となく起動していたのだが、そのたびに涙が止まらないほどだ。

 前回にも書いたが、本作は現在、公式の入手手段がない。基本的にはもうプレイできないのだ。
 このレビューでもしかしたら興味を持ってくれた人もいるかもしれないが、結局そのストーリーを共有できないことには、多少の迷いもあった。
 しかしそれでも、致命的なネタバレを避けつつ全4回(序論含めれば5回)にわたってレビューを書いたのは、ひとえにこの作品の素晴らしさを記録しておくべき、しなければならないと思ったからである。誇張抜きで、2010年代の同人ノベルゲームの中でも、指折りの傑作と信じている。

 いつか、何らかの方法で、形態を変えて頒布されることもあるかもしれない。未プレイの方は、そのときが来ることを祈る価値はある。