Arai Koh's Create Life

シナリオライター・アライコウのブログ。創作、新旧のインディーゲームなどについて書きます。

SakuraGame問題は日本クリエイターの競争力の問題である

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 近頃、中国パブリッシャー「SakuraGame」がSteam&インディーゲーム界隈で話題になっています。ちょうど先日、まとめ記事を書かれた方がいました。私もこの件については関心を持っていたものの、いまいち詳細まではわからずにいたのですが、非常によく理解できました。

maruhoi.com

 この件についての問題は

  • 海外での販売権をすべて渡すということ
  • 翻訳の品質が悪いと指摘されていること
  • 極端な低価格路線により健全な市場形成が阻害されうること

 の3点であると思います。

海外での販売権をすべて渡すということ

 SakuraGameは日本以外のすべての国で販売する権利を購入するため、多くのインディーゲームサークルと交渉してきました。
 上の記事では3万ドルで打診した例が紹介されています。そのまま契約が結ばれたとすると約300万円、結構な額ですね。サークルによっては一部売上が入る仕組みがあるとのコメントもありました。いずれにせよ、もともと海外展開など考えもしていなかった作品をこれほどの金額で買ってくれるとなれば、心動かされるサークルは少なくないでしょう。これだけあれば、充分に新作用の資金になるでしょうし。
 しかし日本以外のすべての国で販売する権利――つまり海外でどのように扱われても文句は言えないということです。後述しますが、劣悪な翻訳で売られる、極端な低価格で売られるということが挙げられます。
 何より好き勝手に内容をいじられるということがあるかもしれません。第一にこの点について警鐘を鳴らす人が多いわけです。クリエイターたるもの、それでいいのかと。

翻訳の品質が悪いと指摘されていること

 海外市場でリリースするにあたり、翻訳のクオリティはきわめて重要な要素となります。この点は商業もインディーも変わりがありませんが、とりわけ中小のインディー開発者が海外に通用するクオリティの翻訳をする/外注するのは、なかなか難しいと言えるでしょう。
 私はスマホ&PC(SteamとMac App Store)で『BAD END』というホラーアドベンチャーゲームをリリースしています。おかげさまでいずれのストアでも好評をいただいていますが、腕の確かな翻訳者に依頼したのかといえば、そうではありません。何しろ最低でも数十万円はかかることが予想されました。
 そこで当初はクオリティは二の次、とにかく海外で出すことを優先し、英語がろくにわからないにもかかわらず自力で翻訳したのです。当然ながらそのクオリティについて厳しいレビューがあったりしましたが、その後有志がボランティアを申し出てくれて、劇的に改良されました。おかげで現在は翻訳のクオリティで批判されることはほぼなくなりました。
 こういう例もありますので、翻訳が悪かろうがとにかく出す――これは一概に悪いとは言えないと思っています。
 ただしそれも、自力で翻訳した場合です。パブリッシャーに販売権を売ったあげくに悪い翻訳で出ていた、というのでは、責任の取りようもありません。プレイヤーがパブリッシャーではなく直接開発者に意見を言うこともあるでしょうが、これも返事のしようがありません。
 私の場合は有志が申し出てくれて幸いしましたが、「個人で頑張って出したことを評価してくれた」ものだと思っています。こうした心ある有志がSakuraGameのようなパブリッシャーに対しても「自分に改良させてくれ」とコンタクトを取るかと言えば、ちょっと疑問です。

極端な低価格路線により健全な市場形成が阻害されうること

 最大の問題はこれかもしれません。100枚のイベントCGにフルボイス、それでもコーヒー代程度の価格。これが「安かろう悪かろう」ではなく「安かろうよかろう」なのです。
 こうした作品が数多く売られるようになると、どうなるか?

「この素晴らしい作品がこんなに安いんだから、あなたの作品もこれくらい安くして!」

 という声が出てきます。こうした光景は現在のスマホアプリ市場でいくらでも見られます。これなら100円でいいとか無料で充分でしょとか心ないレビュー、多くの開発者が目にしてきたはずです。私も例外ではありません。
 一定期間、最安値でセールするなどはありでしょう。しかし常時そのクオリティに見合わない低価格で販売するのは、長期的に見てゲーム市場によい影響をもたらさないと思います。

日本のクリエイターの競争力が問われている

 率直に言って私はSakuraGameのビジネスモデルには賛同しかねますし、今現在打診を受けているかもしれないクリエイターの方々におかれても、安易に契約を結んでほしくないと思っています。もちろんこれまで契約したサークルのことを悪く言うつもりはありません。よく吟味して納得した上で契約したのでしょうから、すでに決まっていることについて外野がとやかく言うことではありません。いずれにせよ、こうした流れは加速していくでしょう。SakuraGameよりもっと上手くやる海外パブリッシャーが登場することも、大いに予想されます。
 しかし私は、この問題が浮き彫りにしたのはパブリッシャー云々ではなく「日本のクリエイターが多くの弱点を抱え、積極的に海外に打って出られない」ことであると考えます。
 ほとんどの人が英語を扱えない。ゆえに最大のPCゲーム市場であるSteamに出しづらい(日本語オンリーでも出すことはできますが)。延々続く不景気による資金難で、翻訳費用を捻出することもままならない……。ノベル・アドベンチャーゲームは特にテキスト量が多いので、翻訳が大変ということもあります。結果としてSakuraGameのような海外パブリッシャーに大事な権利を売ってしまうということに繋がっています。
 このあたりの、根本的な競争力をいかに高めるかが議論されなければならないでしょう。もちろんパブリッシャーと連携するのを否定しているわけではありません。競争力を高めようとは口では簡単に言えますが、実現するのはコスト等の問題で誰もが実現できるわけではありません。代わりに国内の優良パブリッシャーとWin-Winでやっていければ、それに越したことはないと思います。ですのでパブリッシャーの方々にも、クリエイターに寄り添った提案をお願いしたいですね。


 最後に私のゲームを宣伝。海外ユーザーはもちろんですが、やはり日本のゲームなので日本人に多くプレイしてもらいたいのです。『魔法使いの見た夢』に関してはSteamリリース&英語対応記念で長らく低価格セールしていましたが、年内には終わる予定になっていますので、ご購入されるならぜひ今のうちにいかがでしょうか。